第1回美山エコツーリズム大会in美山

  • HOME
  • >
  • 美山の人と地域にふれる3泊4日 みやまトライアル・ワーキングステイ
美山の人と地域にふれる3泊4日 みやまトライアル・ワーキングステイ

【概要】
日程 2018年2月9日(金)〜12日(月) 3泊4日
場所 京都府南丹市美山町 (宿泊:観光農園江和ランド)
受入先
・観光農園 江和ランド http://www.cans.zaq.ne.jp/ewaland/
・料理旅館 枕川楼 http://www.chinsen-miyama.jp/
・特定非営利法人 芦生自然学校 http://ashiu.org/
・美山里山舎 http://satoyama-sha.com/
参加者 10名(男性5名・女性5名)
主催 南丹市・南丹市美山エコツーリズム推進協議会
協力 京都移住計画



美山のエコツーリズムに関する仕事体験を通じて、美山という地域に出会い、そこで暮らす人とつながるきっかけをつくってもらいたいーーそんな思いから企画した3泊4日のみやまトライアル・ワーキングステイ。地域の企業・団体のみなさまのお力添えもあり、昨年に続き第2回目を執り行うことができました。今回、美山に集結した総勢10名の参加者は、それぞれどのような体験をし、何を感じたのか。4日間の活動の様子をご紹介します。


<体験1日目>
美山に根ざす、4つのフィールドへ


正午過ぎに京都駅八条口で集合し、1台のバスに乗り込んで一路美山へ。およそ1時間半の移動時間を活用し、車中で3泊4日のオリエンテーションを行いました。そうこうしているうちに雪化粧の美山に到着。早速、各自で希望した職場体験先4カ所を訪問し、ご挨拶のあと、施設内の見学や軽作業をさせてもらうなどして、無事 “職場デビュー”を果たしました。終了後は宿泊先の江和ランドに集合し、スタッフの方々が用意してくださった、季節の野菜たっぷりの夕食を堪能。「野菜のおいしさが全然違う!」「もう一杯おかわりしちゃおう」などと言い合い、おいしそうにご飯を頬張っていました。

夕食後はコテージで1日の振り返りを実施。一人ずつ1日目の所感を述べていき、20時過ぎにミーティングを終了。翌日からの本格的な活動に備えて、早めに休息を取ってもらいました。

・観光農園 江和ランド



美山町東部・知井地区にある体験型宿泊施設。20数年前、都市部の人たちに田舎暮らしの体験を提供する場として、宿泊用コテージやバーベキュー施設、ぶどう畑、貸し農園などを整備しオープンしました。近年は、年間を通じて米作りに参加できる「みんなの田んぼ」プロジェクトや、個人・団体の希望に応じたオーダーメイドの体験メニューづくりに力を入れています。


・料理旅館 枕川楼



清流美山川のほとりに佇む、明治36年創業の料理旅館。その昔、近くにあった材木の荷揚げ場で働いていた人々を、初代が手厚くもてなしたことから宿の歴史が始まりました。現在は三代目のご主人と女将さん、二人の娘さんが中心となり、代々受け継がれてきたおもてなしの心を体現しています。山菜や鮎、松茸など、四季の味覚を活かした料理に定評があります。


・特定非営利法人 芦生自然学校



日本海に注ぐ由良川の最上流域にあたる美山町・芦生集落。この地で生まれ育った井栗秀直さんが、「芦生の自然の営みを多くの人と分かち合いたい」と、2004年に特定非営利法人 芦生自然学校を設立。大自然のフィールドを活かした子ども向けの体験活動のほか、芦生の森を学ぶスタディーツアーや環境保全活動も展開しています。


・美山里山舎



暮らしの基本である「住まい」と「エネルギー」を美山の森林資源・水資源だけでまかなう、地域循環型のライフスタイルを提案。美山町宮島地区を拠点に、伝統建築・木質バイオマス・ピコ水力発電という3本の柱を軸にした事業を展開しています。カフェやシェアハウスなど、里山生活を体感できる場も提供しています。


<体験2日目〜3日目>
暮らすように働き、見えてくるもの



あくる日からの2日間は、朝ごはんを食べたら各自の受け入れ先へ向かい、夕方までお仕事に取り組むという、まさに美山で暮らす人のような生活を実践。それぞれどんな活動を行なったのか、2日間の活動内容を見ていきましょう。

江和ランドの活動は、野菜の収穫や鶏の解体、薪割り、狩猟のお手伝いなど、田舎の暮らしをリアルに体感できるお仕事のオンパレード。



お金を出せば何でも手に入る便利な都会生活とは異なり、食材や燃料の調達から食べ物に加工するまで、すべて自分の力で成し遂げなければならない暮らしの厳しさを実践的に学びました。

枕川楼では、調理場での皿洗いや盛り付け、客室清掃をはじめとする裏方のお仕事に取り組みました。また先輩社員からサービス業について、美山で働くことについてレクチャーを受ける時間も設けられました。



芦生自然学校の活動に参加した人たちは、理事長から地域の歴史や設立の背景を教わったのち、地域外の人も巻き込んだ今後の事業のあり方について議論。自然学校が果たす役割を知ったうえで、子どもたちが集う自然体験プログラムの運営のお手伝いをしました。



美山里山舎では、伝統建築の資材および薪ストーブの燃料となる木材の切り出しや運搬、薪割り機による薪炭の生産といった山仕事に従事。



その合間を縫って伝統建築に携わる職人さんの工房や、働き手を募っている鉄工所の見学も行っています。

2日目の夜には振り返りの時間を持ち、活動を通じて得た気づきをみんなで共有しました。



司会進行役の青田真樹さん(南丹市美山エコツーリズム推進協議会)の「一番印象に残ったことは?」という問いに対して、「やっぱり、鶏の解体ですね」と口火を切ったのは、江和ランド参加者の栗原三千恵さん。「頸動脈を切って絞めたんですけど、ついさっきまで生きていたから温かいんですよね。命をいただいているというのをすごくリアルに感じました」と述懐。

枕川楼の調理場で働いた湯浅翔太さんは、「これまで外食先などできれいに盛り付けられた料理を見ても、それが当たり前みたいな感覚でしたが、今回盛り付けのお手伝いをさせていただいて、作り手の思いをかたちにする大事な工程なんだと実感しました」と、反省を込めたコメントを残しました。

芦生自然学校の参加者にとっては、理事長の井栗さんと過ごしたひと時が特に印象深かったようです。その一人、神里茉衣さんは「当初は運営のお手伝いをするだけなのかなと思っていたのですが、地域の未来に関わる深いお話までしてくださって、何らかのかたちで地域のお役に立ちたい、関わりを持ち続けたいという気持ちが自然と湧いてきました」と振り返りました。

大阪の会社に就職したあと、Uターン。美山牛乳事業や宿泊事業など、多岐にわたって展開している『美山ふるさと株式会社』で活躍されています。素敵だなと感じたのは、大野さんが語っていた、『五感で感じる美山の暮らし』。

「こちらへ移住した場合、仕事をどうしていくのか、真剣に考えようと思った」と話すのは、美山里山舎で活動した神田寛さん。同所の代表・小関康嗣さんの「自分で何かを始めたいなら、周りと信頼関係を築くのが第一。それには時間がかかるから早めに動いたほうがいい」というアドバイスを例に挙げ、起業も視野に入れた仕事探しの重要性を説きました。

3日目の夜はミーティングの代わりに、江和ランドの参加者も制作に加わった鹿肉ぎょうざ鍋を囲んでの懇親会を実施。



お世話になった受け入れ先の方も加わって、2日間の思い出話や移住に関する相談事、美山の活性化策などについて夜更けまで熱い語らいが繰り広げられました。


<体験4日目>
“明日” のために、体験の学びを共有



TWS最終日は、3日間の職場体験を改めて振り返り、美山との関わり方をみんなで考える時間を持ちました。会場は、江和ランドに隣接する「聰山美術館」。移築して建てられた茅葺古民家のなかに、美山を愛した洋画家・高木聰さんの遺作が並ぶ、詩情あふれるアート空間です。



はじめに職場体験のグループ単位で3日間を振り返り、「居・職・住」の3つの観点で各自が得たもの・もっと得たかったものを整理し、全員でシェアしました。

居場所やコミュニティ、人とのつながりを意味する「居」については、「多様な地域性があるとわかった。地域ごとの特徴をもっと知りたい」「居場所づくりの第一歩が踏み出せてよかった」「移住者と先住者の関係性が垣間見えた。もう少し深く知りたい」といった意見が目立ちました。



「職」は読んで字のごとく、職業、仕事に関すること。ここでは、「休耕田を活用した農業ならすぐにできそう」「月々の収入の目安が知りたい」「生活に密着した仕事が多い印象。仕事と生活の分けたい人にとっては厳しいかも」などの意見が続々。収入面については、青田さんから次のようなアドバイスがありました。

「何の仕事をするかによって収入は違ってくるのですが、アルバイトでもフルタイムで働けるところはそう多くはないので、自分で仕事をつくる、または都市部に働きに出るほうが安定収入を得やすいです。また、収入を増やすことを考えるより、農業や狩猟のスキルを身につけるなどして、支出を減らしていくほうが手っ取り早いし、美山らしい暮らしが楽しめると思います」

3つめの「住」は、住む場所として美山をどう捉えたか?という問いかけです。これに対しては、「想像以上に広い町だった。今回行けなかった地域も見てみたい」「自分の力でモノを生み出すパワーや発想力が求められる場所だと思う」「パートナーと自分の価値観が一致していないと移住は難しそう」といった多様な見解が示されました。

「居・職・住」にまつわるさまざまな気づきをシェアしたあとは、自分と美山の「これから」について考える時間。すぐにでもできそうな関わり方(Can)と、将来的にできるかもしれない関わり方(Will)の2つの観点に分けて意見を募りました。

実現性の高い“Can”については、「周りの人に美山の魅力を伝える」「写真撮影や語学力など、自分のスキルを活かして誰かを案内する」「移住のリサーチも兼ねて短期バイトに来る」「ガイドツアーのプランニングを手伝う」「ホームページの制作やメンテナンスをサポートする」などなど、頼もしい声が続々。「ぜひぜひ、お願いします!」と、青田さんも大喜びです。



希望的観測を交えた“Will”のほうは、「トレイルランニングやマラソン大会など、自然とスポーツの両方が楽しめるイベントを実施する」「保存食や柿渋染など古来の知恵を伝える大人向けの講座を開く」「美山の味覚を京都市内で紹介し、観光客を美山へ呼び寄せる」といった、具体的なアイディアが飛び出しました。

青田さんは「何かをやりたくても担い手不足や資金不足でできないと困っている人が多い」という地域の実情を踏まえ、「情報発信や商品開発など、外にいながらでもお手伝いいただけることはたくさんあると思います。みなさん各自の距離感でこれからも美山とつながっていただけたらと思います」と、メッセージを送りました。

こうして、約2時間にわたるクローズドセッション、そして3泊4日のみやまトライアル・ワーキングステイの全日程が終了しました。



最後に、参加者を受け入れてくださった職場のみなさんから寄せられたメッセージをお届けします。

・江和ランド 鹿取悦子さん
今回、職場体験をしてくださった方は、食や農業に関心のある方ばかりでこちらもサポートのしがいがありました。季節が変わればまた違った体験ができるので、ぜひまた来ていただきたいですね。京阪神の方なら「みんなの田んぼ」という米づくりプロジェクトに参加したり、貸し農園を利用してもらうのもいいと思います。でもまずは、「江和ランドっていいところだよ」と周りの人に宣伝していただきたいです(笑)。

・枕川楼 女将 長野綾子さん
美山には当館をはじめ、若い方が活躍できる場が数多くあります。特に観光の分野では、外国人のお客様の増加にともない、語学に堪能な人が必要とされています。従業員として働くだけでなく、語学やITスキルなど自分の得意を活かして、新しいビジネスを立ち上げるのもおすすめです。今回のTWSは、そうした可能性を感じていただく機会になったのではないでしょうか。美山を活気づけるためにも、こちらで働く人・暮らす人が一人でも増えてほしいです。

・芦生自然学校 理事長 井栗秀直さん
今回、職場体験に来てくださった方には、新事業についていろいろな案を出していただき感謝しています。まだ検討中の段階ですが、何をするにしても拠点が一ついるだろうということで、外部の人を巻き込んで、新しい施設を自然学校の中に作ろうと考えているところです。参加者のみなさんも、何らかの形で芦生に関わり続けてくれるとうれしいですね。

・美山里山舎 代表 小関康嗣さん
TWSで来てくれた2人のように移住を考えている人に対しては、仕事を紹介したり、滞在場所を提供したり、できる範囲でお手伝いしたいと考えています。SEから大工に転職した私のように仕事をガラっと変えなくても、それまでやっていた仕事と美山にある仕事を並行して稼ぎを作っていく方法もありますから、自分に合った働き方を見つけてもらえたらと思います。

暮らすように旅をするーーエコツーリズムの理念に沿った手法で、みやまトライアル・ワーキングステイは行われました。地域のなかへ入り、働きながら、そこで暮らす人たちの思いに触れる。するとどこかに必ず、自分の“居場所”が示される。そんな有機的な関係が芽生える場を、これからも提供していきたいと思います。